BNCTの過去・現在・未来 – 日本が世界をリードするがん治療【BNCT】

BNCTは将来が期待された新しいがん治療ですが、まだ研究段階の治療であり実際に治療できる機会は非常に限られています。ここでは、BNCTの現状と今後どのように発展していくかの展望についてお伝えしていきます。

BNCTについては「BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは? – BNCTの原理と他の治療法との比較」をご覧ください。

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目次

BNCT研究の推移

アメリカ生まれ、日本育ちの治療法

BNCTの概念自体は1936年にアメリカで提唱されたものであり、実際の臨床も1950年代にはアメリカですでに行われているように非常に歴史の深いものです。ただ、残念ながらアメリカでの研究は期待されるほどの成果が得られずに幕を閉じてしまいました。
しかし、ハーバード大学に留学していた日本人により腫瘍への集積性の良い新たなホウ素化合物(BSH)が開発されたことにより、1968年からはアメリカではなく日本でBNCTの臨床が開始されました。以降は主に日本においてBNCTの臨床・研究がすすめられていきました。その後、さらに腫瘍への集積性の良い薬剤が開発されたり、照射法を工夫したりすることによりBNCTの適応範囲は徐々に拡大してきました。また、最近では日本での良好な治療成績がきっかけとなり、ヨーロッパ・アメリカ・アジアなどでもBNCT臨床が再開されたり、研究が再開されたりしてきています。

現在の最新のBNCT研究の流れについては、例えば学術大会の演題一覧を確認していただければわかると思います。

国際学会の演題一覧を見ると、日本からの演題が多く日本がBNCT研究の中心であることが分かりますが、アルゼンチンやフィンランド、スペイン、中国、台湾、アメリカ、ロシアなど研究が世界に広がっていることが分かります。

BNCT臨床の飛躍

実験的な治療としてのBNCT

BNCTの照射に必要な中性子を取り出すには原子炉が必要であり、日本においては京都大学原子炉実験所(現 複合原子力科学研究所)の研究用原子炉を中心に臨床がなされてきました。しかし、原子炉を街中の病院に併設することは現実的に不可能であり、患者を病院から遠く離れた郊外の原子炉まで運んで治療する必要がありました。

また、 通常の病院における治療では「患者の治療が最優先」となりますが、原子炉においては「患者の治療よりも原子炉の安全管理が最優先」となります。 原子炉である以上は当然のことですが、場合によっては治療直前になって急遽治療ができなくなってしまったり、そうでなくても1年のうち半年程度は定期点検で運転できない期間ができてしまうので、安定的に患者の治療をする環境としては課題が多いものでした。

さらに、研究用原子炉を維持すること自体が非常に難しく、以前は他の研究用原子炉でもBNCTが行われていたのですが、現在は京都大学の原子炉のみとなってしまっています。このことも患者の治療へのアクセスを困難とする要因となってしまっています。

以上のようなことから、いくらBNCTが良い成績を収めていても、あくまでも研究所で行う実験的な治療にとどまっていました。

京都大学複合原子力科学研究所における原子炉とBNCT治療室。

「研究所で行う治療」から「病院で行う治療」へ

先ほどのBNCTの課題を解決するために、現在原子炉ではなく加速器を用いたBNCT装置が開発され、臨床で用いられようとしています。

住友重機械工業と京都大学が共同で開発したBNCT用の加速器中性子照射システム(C-BENS)が世界で最初のものです。2012年より京都大学複合原子力科学研究所・南東北BNCT研究センター(途中から治験に参加)・関西BNCT共同医療センター(途中から治験に参加)において共同で治験が開始され、早ければ2020年中には薬事承認が得られる見通しとなっています。(薬事承認が得られたら臨床試験が開始され、先進医療への登録、そして最終的には保険収載を目指すことになります)

別の加速器照射システムとしてはCICSが開発した加速器中性子照射システムの治験が2019年より国立がん研究センターにおいて開始されています。

その他現在日本では以下のようなグループで加速器中性子照射システムの研究開発が進められています。

海外でも、Neutron Therapeutics社などが加速器BNCTシステムの開発を行っています。

加速器BNCTに関しては京大・住友重工のシステムが実用化間近であり、その他のグループが追いかけている状況です。これらが実用化されれば、いよいよBNCTは「研究所で行う治療」から「病院で行う治療」へと飛躍していくと期待されます。

BNCT研究のこれから

BNCTの最大のネックは原子炉が必要なことでした。これにより患者は病院から遠く離れた原子炉のある研究所まで行かなくてはならず、研究所で行われているだけの遠い存在の治療だったはずです。しかし、現在加速器BNCTが薬事承認間近であり、これから普及していくと思われます。そうすれば、病院で行われている身近な治療になれるでしょう。

しかし、BNCT研究における課題の一つがクリアされたに過ぎず、まだまだBNCTには様々な研究課題があります。

いかにしてホウ素化合物を腫瘍だけに取り込ませるか?

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは? – BNCTの原理と他の治療法との比較」で説明したように、BNCTではホウ素化合物が腫瘍に取り込まれなければ治療効果が発揮できません。よって、治療が成功するかどうかの成否はホウ素の取り込みにかかっています。
BNCTの大きな研究課題の一つが、腫瘍選択性の高い薬剤開発です。

BNCTの照射線量をどのように計算するのか?

一般的なX線による放射線治療であれば、物理的に何Gyの放射線が照射されたかを計算すればよく、陽子線治療・重粒子線治療でも物理的な照射線量に生物学的効果比を掛け合わせる計算方法が確立されています。しかし、BNCTでは生物学的な照射線量を求めることが非常に難しくなっています。なぜなら、BNCTの照射線量はホウ素化合物の取り込みに依存し、「ホウ素化合物を取り込んだ細胞には多くの線量が当たるが、その隣のホウ素化合物を取り込んでいない細胞には全く照射されない」ということが起きてしまうので、そもそも照射線量を定義することすら難しくなってきてしまうからです。一応BNCTの照射線量をX線治療の照射線量に換算する方法はあるのですが、細胞レベルでの不均一性を反映できたものではなく、これに関してもさらなる研究が望まれます。

まとめ:BNCT研究の今後

以上のように、もともとアメリカで生まれた治療法であるBNCTは本場のアメリカでは廃れてしまいましたが、それを持ち帰ってきた日本人によって価値を見出され、原子炉関係など様々な困難を乗り越えて研究者の執念でここまで続けられてきました。そして、現在は原子炉から加速器に移行しつつあり、ようやくその執念が実ろうとしている治療です。(BNCTの歴史だけでいくつも記事が書けそうなほど、今までの道のりには様々なドラマがあったようです)

特に、BNCTは加速器開発・線量計算などの物理分野、薬剤開発などの薬学分野、治療メカニズムの解明などの医学分野が密接に関わっている学際的な研究分野であり、それが研究の面白さだと思います。これから益々多くの様々な分野の研究者がBNCT研究に関わって、先人の執念を継承してその研究が発展していければいいなと思っています。特に、BNCTは日本が世界をリードしている研究分野であり、さらにどんどん日本から新しい研究成果を発信していける分野だと思います。 (このブログもその一助になればいいなと陰ながら思っています)

ぜひ皆さんも、これからもBNCTに注目してみてくださいね!

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